
先日、料理教室の業務引継があって、これから僕は副会長としてこの料理教室にどっぷりと漬かる羽目となった。まあやむを得ない。
そしてその2日後が11月の今年最後になる料理教室である。12月も教室そのものはあるのはあるが、そのときは一年の反省会で、料理は作らず弁当を食べるのみである。
その料理教室では今回は16名の参加とのことで4班編制となった。今回は珍しく檜山会長も欠席である。本来の5班を4班にするため、トレードが必要になるが、全員出席の僕の班から一人出すことになった。そして安田さんが4班に移る。
「トレードに出したのが働きが悪いようならビシビシどやしつけて下さい」
「分かっていますよ。遠慮はしませんよ」
今月の当番はどの班か知らないが、とにかくそこらに立っている連中を使って料理の材料が配られる。その中にぎんなんがあった。もちろん殻付きである。殻付きのぎんなんは説明がなくったって殻を割らないと食べられない。各班とも説明前に一斉に殻割りを始めた。まあその統一ぶりは見事だったなぁ。だが割り方については二通りに分かれた。
ひとつは包丁の柄でたたいて割る方法である。そして僕の班は引き出しを開けて料理ハサミを探した。それをとりだし歯でない柄側のくぼみに入れてぎんなんを割るのである。
「う〜ん。ぎんなんが丸いのでなかなか挟めないなぁ」そういいながら引っ掛かった時に「えぃっ」と力を入れてぎんなんを割った。ところが殻は割れたが実も割れた。
「ああ失敗。まあ食べる時は割れてても味には関係ないよね」
「ちょっと俺に貸してみろ」とうちの班長が乗り出した。
それでハサミを渡すと結構上手に割っている。その割れたぎんなんを別の人が殻から取り出して皿に入れる。
「この渋皮はどうするんかなぁ」
「ちょっと茹でると簡単に剥けるよ」
「分かった。後でまとめて茹でよう」
まあそうしてぎんなんの殻割りに熱中していると招集が掛かった。

そして料理の講義が始まった。最初に柿の切り方を教わる。
「柿の半分が行っているけど、ほかのものと接触していますから、ちょっと洗って下さい」そういいながら先生は包丁を拭いた。
「洗うというのは包丁を洗うのですか」
「いえ、柿の切り口を洗うんです」当然だろうね。
そしてデザートになる柿とリンゴの切り方を丁寧に解説された。基本的に柿もリンゴも皮を少し残して格好よくするのである。
「今日はちらし寿司なんですけどね、キノコづくし、その中に鮭の身を混ぜるのです。それで鮭にはお酒を振りかけて生臭みを消すのです」
「その鮭を魚焼き器で焼くのですけどね。今日は無いのでまとめてオーブンで焼きます」つまり鮭を焼くのは先生がまとめて焼くというのだ。魚の焼き方も料理教室のテーマだとは思うが、今は黙っておこう。
「そしてですね、焼いた鮭は寿司に混ぜるためほぐすのです。このときゴミみたいに小さくほぐさないで下さい。瓶詰めの鮭みたいに小さくいないのです。小さくほぐすとこんなに大きい鮭の切り身が泣きますから」
「ほぐしたものは寿司に混ぜるのです」鮭は泣いてもかまわないが、たしかにあまり小さいと寿司の方がまずくなりそうだ。
「ちらし寿司には舞茸とシメジと椎茸を混ぜるのです。椎茸は芯は捨てます。捨ててもいいんですが、使う時はこうやって縦に千切りにすると芯が歯に絡まるので少し斜めに切るのが良いのです」
「紅ショウガは千切りにします。そしてぎんなんですけどね、ここに筋がありますよね。この筋のところをハサミに当てて割るのです」なるほどそうだったのか。そうしなかったから実まで割れたのだ。
それからぎんなんの実の取り方に脱線する。ぎんなんは木からたたき落とすのは良くないそうだ。自然に落ちたものを拾うのが良くて、それを水を張ったタライに漬けて表面の果実を腐らすのだという。そして腐ってきたら手で実だけを拾い出すのだという。方法は分かるが、今でもこんなやり方でやっているのだろうか、ちょっと疑問ではある。

それから寿司米の炊き方、酢の混ぜ方、団扇のあおぎ方と続く。
「酢は一合のお米に20ccの米酢、その中に半分の砂糖を入れるのです。そう覚えておいて下さい」
「お米は酢の分だけ水を少なくして炊くのです。炊きあがったご飯は飯台にあけて富士山みたいに山盛りにします。このときはあおがないのです。そして酢を全部等分になるようにかけます。そしてしばらく置いてから団扇であおぎながらご飯を切るようにして混ぜます。こうするとご飯につやが出るのです」なるほどなぁ。
「今日はご飯が炊きあがったら、あおぐのは大儀だから扇風機の小さいものを持ってきていますから、それを使いながらみんなで混ぜましょう」教えるのは団扇で使うのは扇風機だそうな。
「次に沢煮椀です。大根とニンジンは千切りにします。あんまり丁寧に切らなくてもいいです。マッチ棒くらいです。エノキダケは石突きを取って半分に切ります。ゴボウはささがきにします。あれっ」
「あれっ。ゴボウはどこかしら」と先生はゴボウを探す。
「今朝材料を分ける時にもゴボウはなかったです」と誰かが言う。
「ええっ。まあ買わなかったのね。リストから落ちていたんだわ」
「まあどうしよう。この料理ゴボウが命なんですのよ。仕方がない。後で買ってきます。その先にフレスタがあったわよねぇ」
「いいですよ。遠いから」
「でもねぇ。いいですかぁ。すみませんねぇ」
「三つ葉はあったよねぇ。自信がなくなったわ」まあ先生も大変なショックらしい。しかしとうとう買わずにゴボウなしにすることで折り合いが付いた。
「ゴボウは、わたし皮むき器でやっているんだけど、あれはいけないだそうですね」
「根菜は皮のところにうまみが多いのです。ゴボウは包丁の裏でしごくのがよいです」
つぎが小松菜と桜エビの炒め物である。桜エビの解説などを交えて説明が続いた。


講義が終わりテーブルに散る。
「さあ、まずぎんなん割りを終えよう。それからだ」そしてぎんなんに再び挑戦した。しかしぎんなんをハサミに挟むのは結構難しくて実がよく落ちる。
「おい、見ちゃおれん。俺がやる」とハサミを取り上げられた。
「ほかにハサミはないんかな」と探すが諦めて包丁を握る。
「まず千切りだ。大根とニンジンをとってくれ」
それから一生懸命千切りに取りかかる。大根の千切りをやりながら、《俺は包丁作業が多いなぁ》と思いながら切っていく。今まで料理教室で分担する作業では僕は包丁切りが多い気がするのだ。
千切りが終わると、さらに小松菜を切っていく。やっと一段落すると、
「錦糸卵は苦手だよ」という声が聞こえた。
「よし、僕がするよ」と今度は卵に取りかかった。この錦糸卵、材料をそろえ、器具を手元に置いてから取りかかったのだが、結構難しい。3回焼いて1回失敗した。まあ後で細く切ればごまかしがきくからと諦めた。
そのうちご飯が炊きあがり、酢の混ぜ方が始まった。片方では先生がまとめて焼いた鮭も焼き上がりほどよくほぐしていた。それらができあがるとご飯を貰い、準備した具を混ぜ合わせた。できあがったちらし寿司はおいしかった。
半分ほど食べて持って帰ると、家内は
「持って帰った?」と聞く。
「持って帰ったよ」と差し出した。家内も
「鮭を混ぜたお寿司なんて初めてだわ。おいしいわ。こんな作り方もあるのね」と感心していた。
「あの先生は結構こった料理を指導するんだ。やはりベテランだからだね」


