いよいよ県知事選挙が始まり予定の5人が立候補した。わが安佐南区の県議である河合杏里も立候補して県議を失職した。もう1人西区からも女性の県議が、これは前日に辞職して立候補したが、杏里は辞職せずに「失職」の作戦をとった。この差は何なのか僕にはよく理解できないのだが、道も県議の補欠選挙と関係があるような気がする。
選挙は始まったが、毘沙門団地内は静かなものである。選挙カーは1台も来ずポスターも貼られていない。立候補者はみな裏の方でゴソゴソやっているから表に出るようなことは何もしなくてもいいのかなぁ。
さて、10月23日はいきいき料理教室である。行くと久しぶりに20名超の参加者になっていた。
「お早う」と日高さんが声を掛けた。
「あ、お早う。久しぶりですね」日高さんは僕の所属する3班の班長である。もう数回欠席していた。
日高さんはみんなとの雑談の中で五島列島から沖縄への船旅のツアーに出掛けるという。
「すごいな。うらやましい」
「娘がJTBに勤めていて、空きが出たので行ってくれと言われたんだ。急に決まったんだ」
「それにしても豪華客船で船旅とは滅多に経験できない」
定刻となり、料理教室の檜山会長がみんなを集めて会議を持った。12月で役員改選になるが、自分はもう辞めたい。ところが後任の人選が決まらない、というものだ。そして西田さんは手を上げているので、もう2人、副会長と会計に誰か手を上げてくれ、と言われる。
しばらく皆黙っていたが、ひとり手を上げて、
「会計ならやってもよい。会計以外ならダメだ」という。
そしてとうとう僕にお鉢が廻ってきて、副会長になることになった。後で家内に言うと、
「あなた、忙しいと毎日こぼしているのに、なんで引き受けたの」とさんざん嫌みを言われた。

今日の料理は「乳製品を使った秋の献立」というものである。材料にヨーグルトがあるのを見て、
「あ、ヨーグルトか。もう今日の料理の興味を失った。北はヨーグルトが嫌いなんだ」と隣に言う。
いつものとおり全員が集められてレシピの伝授が始まった。桑原先生はレシピの順番を無視して最初にヨーグルトを取り上げ、
「このヨーグルトは無糖で無脂なんです。今日のレシピはちょっと脂肪分が多かったのでこれにしました」
「この無糖の分が一つでは少なくて、二つでは多いので、こちらは加糖・脂肪有りです。でも脂肪も砂糖も少ないのでこれを混ぜて使います」
確かによく分かる説明ではある。しかしレシピでは脂肪分が多かったという説明との整合性についてはとうとう分からず仕舞いになった。大体にしてこの桑原先生、レシピと説明が乖離するのは日常茶飯事だから気にしないことにする。
次に海藻ミックスの説明になる。この先生、とかく袋物の説明はよくするのだ。この海藻ミックスであるが中国産だという。それで
「大体は洗わなくても良いんですが、中国製で気持ちが悪い手という人はちょっと洗ってもよいです」と中国政府が聞いたら激怒するようなことを言う。
それから野菜の切り方に移る。
「ごぼうはささがきにして下さい。今日は新人さんがいらっしゃいますが、ささがきって分かりますか。ささがきはですね、こうやってごぼうをさぎながら削いでいくのです」ここで僕は
「先生、千切りじゃないんですか」
「いえ、ささがきです。そう言ったでしょう」
「でもレシピには《千切り》と書いてありますよ」
「そぉう。それじゃレシピを訂正しておいて下さい」と気にも留めない。

「レンコンはこうやって銀杏切りします。レンコンは固いので包丁は先の方を使って、こう押しながら切るとよく切れます。ニンジンは千切りにして下さいね」
「根菜は水から茹でるのが基本ですが、今日はシャキシャキ感が残るようにお湯から茹でるのですよ」
「そして茹でる時はシャキシャキ感が残るようにさっと茹でるのがコツです。お湯がもったいないので、先にレンコンとニンジンを茹で、そのお湯でごぼうを後から茹でて下さい」なるほど、そのこともレシピには書いてないな。メモしよう。
「この《海藻と根菜のヨーグルトソース》はヨーグルトを混ぜるのではなく、皿の下にヨーグルトを敷いて、その上に海藻と根菜を混ぜたものを乗せます」そのことはレシピにちゃんと書いてあるな。
「きのこのオーブン焼きですが、この粉チーズを使います」と粉チーズを取り上げてえんえんとチーズの解説に入る。まあ物知りの先生ではあるが、少しくどすぎる。数カ月前だったか、ミニトマトの品種について色々話してくれたが、もう今では僕の頭からは完全に蒸発している。
次にメインデッシュの《魚介類と白菜のクリーム煮》の説明に移る。
「鮭は1人分が1/2切れです。5人のテーブルはすでに二つと1/2切れが配ってありますので、二切れを半分に切るだけですよ。ひとりが1/2切れを一つずつです」
「この鮭は塩を薄く振り、10分ほど置くと魚の臭みがとれますので、それから水分を拭きとり粉をまぶしてフライパンで軽く焼きます。後で煮ますのでそんなに焼く必要はありません」
「先生、粉というのは小麦粉ですか、それとも粉チーズですか」
「小麦粉です。薄力粉ですね。《粉》と言ったら薄力粉のことなんです」
「《魚介類》の一つが《ボイルほたて》です。ボイルと書いてありますが、ほんの少しボイルしてあるだけです。ホタテはお刺身と考えて洗わなくてよいです」
「次に野菜の切り方です。白菜はこうやって軸の部分は切り離して4センチ長さ、一センチ幅に切るのです。葉の部分はざく切りします」
「ブロッコリーは包丁で切るとクズがボロボロと落ちます。それで軸の部分をこうやって切れ目を入れ、裂くようにするとクズが出ません。パブリカはみじん切りです」
こうやって次々に説明が続く。結構長い説明で、ぼつぼつ自分でやってみたい気持ちがうずく。早く終わらないかなぁという気持ちで聞いていた。

やっと説明が終わり、それぞれテーブルに散る。今日は出席者が多いから5テーブルを使う。賑やかだ。
手テーブルに配られた材料を見ながら
「さてと、何から手を付けようか」と思案する。
とにかく目に付いた白菜から切ることにした。
「この白菜洗った方がよいかな」と言うと、
「洗いましょう」と戸沢さんが言う。その洗ったのを先ほどの説明のとおり軸と葉に分けて説明通りに切った。
次に手に当たったのがごぼうで、まず包丁の背中で皮をしごく。
「ずいぶん細いごぼうだなぁ。値切ったに違いない」
このごぼうをささがきにするのだが、最後にささがき出来ないほど短くなるとどうするのか。捨てるのはもったいないので取りあえず僕は乱切りのような感じで小さく切った。後で先生が顔をのぞかせた時に聞いて見たが、やはり僕の推量通りに切るのだと説明を受けた。
「先生、こういうところはきちんと説明してくれなくちゃ」
「はいはい」
いつものとおり包丁奉行となって日高班長と2人で全部の野菜をしごうした。この間に別の人たちは茹でたり混ぜたりをしている。調味料の調合を専門にするものも居た。
取りあえず全部切ってまな板は引退してもらう。僕の《マイ包丁》も片づける。このマイ包丁、ぼつぼつ研ぐ時期に来ている。これが前に買った包丁研ぎ機では研ぎにくいのだ。もっと研ぎやすいシャープナーを買いたい。

日高さんが鮭を焼くためフライパンをとりだす。
「鮭に塩は振ったの?」
「もう振ってある」
「小麦粉を付けよう」と井手元さん。
「もっとしっかり付けなくちゃ」と日高さんが言う。それで真っ白になるまで粉を付けた。
「さあ焼こう」と日高さんが焼き始める。しばらくして表面がきつね色にこんがり焼かれた。
「もう良いんじゃないかな」と僕が言う。
「もっと焼かなくちゃ」
「でも後で煮るからざっとでよいと先生は言ったよ」
「もう少し焼こう」まあ鮭一つに賑やかだ。
次に《魚介類と白菜のクリーム煮》の調理のため鮭を焼くのに使ったフライパンを紙タオルで拭いてそこにバターを入れる。レシピには「バターの形が残っているうちに白菜の軸を入れる」と書いてある。
「おい、白菜、白菜」急いで白菜を入れる。レシピには続いて「軸がしんなりしたら葉の部分、スープを加える」と書いてある。
「スープ、スープ。どれがスープだ」
「ここにあるよ」
「この塊か。このまま入れるんかなぁ」そこへ先生が来た。
「この固形スープはどうするんですか」
「お湯で溶いてフライパンに入れるのよ」
「お湯で溶く?。そんなの初耳だ」
「レシピに書いておいたわ」
「本当?。レシピはと。あ、書いてある」
「勝ったわ」くそったれ、レシピをチェックしなかった僕の負けだ。

クリーム煮が仕上がる頃は大方の料理は進行中である。
「おい、このシメジは何に使う?}と聞く。
「クリーム煮じゃないの」
「クリーム煮のレシピにはシメジは出てこないよ」
「アッ。《きのこのオーブン焼き》だ」
「どこにある」
「今オーブンの中で加熱中だ」
「シメジを入れずにか?」
「どうする」
「入れなきゃマズかろう。おいオーブンから出せ」あわてて《きのこのオーブン焼き》をオーブンから出す。もう半分は焼かれていた。
「まぜなくていいかなぁ」
「今さら混ぜられない。シメジだから良いよ。とにかくシメジを全部入れよう」
かくしてシメジを植えに乗せて再び焼いた。
でき上がった料理は結構美味しかった。特にクリーム煮は絶品だった。《海藻と根菜のヨーグルトソース》は僕としてはあまり美味しくなかった。まあヨーグルト嫌いの僕だからなぁ。
