
9月の料理教室も出席者は少なかった。そのせいか会長も弱気な発言が口から出る。役員は2年任期だとか、続けることに価値があるとか、ある程度数がまとまらないと運営できないとか。もうこの12月の年度替わりに辞める算段をしているらしい。
「まあ後2ヶ月あるので、考える時間は充分ありますから」と結ばれた。
さて、料理のレクチャーに入る。
「今日は《中華料理の定番》である酢豚をしようと思うのですよ。それで10月3日が旧暦のお月見なんですよ」
先生の第一声はこのような内容だった。だがなんで酢豚と月見が関係あるのかどうしても僕には分からないんだ。まあとにかくそういう切り出しで話始められたのだ。
「上新粉というのは普通のお米を粉にしたもので、白玉粉というのがもち米を粉にしたものなんです。これを混ぜ合わせたものが団子の粉として売っているのです。この混ぜ合わせる比率が企業秘密になっていて、だいたいが上新粉のほうが半分より少し多いらしいです。この混ぜたものが250gで300円、混ぜてないものが200gで160円、混ぜたものがずいぶん高いですね。今日は混ぜてない方を使います」
「むかし柏餅というのを食べたことがあるでしょう。あの柏餅はもち米の粉は使わないのです。上新粉から作ります。それを団子にして蒸篭で蒸すのです。その蒸したものを鉢に入れて突いてから、その団子の中にあんこを入れて、もう一度蒸すのです。むかしの人はずいぶん手の込んだことをやっていたのです」
「上新粉ですがこちらは水で練って耳たぶくらいの固さに練るのです。こちらはお湯で同じように練るのです。そして出来たものを合わせてまた練って一つにします、次にこれを粘土細工のように均等な太さに丸めて長く伸ばし、包丁で等間隔に切っていきます。それを丸く形を整えます。ひとつひとつちぎって団子に丸めても良いのですが、その方法では大きさが揃わないのです。この丸めた団子を押尾をちょっと落とした熱湯で茹でます。浮き上がったところを一分ほど待って取りあげ、水で冷やします」
「それを盛り付けるのですが、今日はメニューにないことを話して申し訳ないですね。お正月に使う三方に、このように盛るのです。団子を3つ、2つ、3つに固めて8つ並べ、その上に4つを四角に置きます。その上にさらにふたつ置き、さらにその上に一つを置いて、合計15の団子を乗せるのです。ただ今日は三方がないので皿に乗せます」
要するにだね、お月見団子を作るのだが、それは先生がやるのだそうだ。僕達は酢豚を作るらしい。その僕達が作らない団子の作り方をえんえんと聞かされた。



その後でいよいよ本番の僕らが作る料理になった。それも酢豚は後回しにして、まず「かき玉汁」である。「かき玉」というのは、野菜を煮て調味料を入れ、味を整えてから溶いた玉子をたらたらと流し込むのをかき玉というのだそうだ。
今日作るかき玉汁は中華っぽくするためごま油を垂らすのだという。最初にちんげんさいを軸と葉に切り分け、3センチ長さに切る。えのき茸は石突きを取り半分に切る。そしてまずちんげんさいの軸を先に煮て、少し柔らかくなったら葉とえのき茸を入れる。それに中華スープの素を水で溶いたものと塩・胡椒を入れて味を整える。
最後に液卵を流し込み、ごま油を垂らす。このように作り方はけっこう手が込んでいる。
次はカボチャのサラダであるが、カボチャは千切りにする。
「固いので手を切らないようにして下さい。いちおう絆創膏は持って来ていますけどね」まさか、後でこの「絆創膏をくれ」という声が実際に出るとは思わなかったな。僕の班ではなかったので詳細は不明だが、やっぱりカボチャで切ったのかなぁ。
「このように薄く切ってから、こうやって千切りにします。固いので二枚程度以上に重ねないでね。少しこうやって斜めに切ると長くなります。後はこうやってごまかすのです。これをさっと茹でるのですが、カボチャは繊維が柔らかいので茹ですぎるとボロボロになるので気をつけて」
そしていよいよ酢豚になった。
「酢豚も中国では北の方ではあまり野菜は入れないようですが、南の関東付近では野菜を沢山入れます。味も南の方は薄いですね。今日は野菜をいっぱい入れて関東風でいきます。入るものが椎茸・玉ネギ・タケノコ・ピーマン・ニンジン・パイナップル、ちょっと欲張って沢山入れます。豚肉は生姜の搾り汁をお酒と一緒に絡ませておきます」
「中華料理は中華鍋にやたらと油を入れて、すべての材料を油を絡ませるのです。それをすると今日はカロリーが多すぎるので、野菜には油を使いません」
「まず玉ネギの切り方ですが、中の小さいところがクズみたいに小さくならないように、こうしてですね....」とまず皮を取り除き、それから縦に2つに割りさらに横に3つに切る。芯の部分は取り出してざっくりと切る。外側の方は全部をバラバラにしてから、バサバサと食べやすい形に切っていくという。こうすると一つ一つが形が揃うそうだ。
椎茸は軸を取り、全ての断片に褐色のところと白いところがあるように全体を廻しながら削ぎ切りにする。茹でタケノコは6ミリ厚さにいちょう切り。ニンジンはごく薄い乱切りにする。ニンニクはみじん切り。と、こういうふうに一つの料理で包丁切りの全てのテクニックを野菜毎に使い分ける。
「ニンジンは乱切りが良いのです。こうすると今日は油で炒めないので痛みにくいのです。しかしちょっと厚いところが出来るので、今日はいちょう切りでもいいです」
「次に豚肉ですが、表面の筋があると炒めたら縮むので、こうやって筋に切れ目を入れておきます。それから厚さ一センチほどに切ってから一口大に切ります。それからこの豚肉にお酒をもみ込み、次に醤油をもみ込み、そして生姜汁をもみ込みます。それから片栗粉は油で揚げる前に片栗粉をもみ込みます。片栗粉は早くからしません」
「甘酢を用意しておきます。甘酢は醤油・砂糖・酢・ケチャップ・鶏ガラスープ・酒ととっても沢山入っています。これを事前に準備しておくのです」
「豚肉を揚げる時は、フライパンに1センチほど油を入れて下さい。この油はとても濁るので、上げた後捨てます。揚げ方は《炒め揚げ》というやり方で揚げます。豚肉を入れてちょっと置いてから動かします。直ぐに動かすと片栗粉がはがれるのでちょっと置きます。揚がったらペーパータオルの上に置いておきます」
「全部揚げたら油を捨てて、そこにニンニクのみじん切りを炒めます。それから固いものから野菜を入れます。豚肉も戻して甘酢をかけます」
「少し水を飛ばしてから、火を止めて水溶き片栗粉を様子を見ながら注いでいきます。その後もう一度強火で炒めます」
「先生、その余った油は何処に捨てるのですか」
「それは準備します」
「家庭でプロがやるようなやり方で炒めないで下さい。それをすると大変なんです。何か質問がありますか。無いですよね」
「あ、レシピに書いてないけど、パイナップルは缶の汁は残してありますよね。この汁を大さじ1杯くらい甘酢の中に入れておいて下さい」

まあ長い説明だった。それに手順がけっこう複雑だ。いっぺん聞いただけではとても覚えきれない。後で先生に何遍も聞かないとダメだろう。
テーブルに散り、包丁を取りあげる。僕はまずカボチャを掴んで切り始めた。幸いに絆創膏の助けは必要なかった。何処かでは「絆創膏」と叫ぶ声がしていたが、忙しくて様子を確認する暇はない。
誰かがチンゲンサイを切っている。僕は豚肉を取りだして切り始める。その間に早速カボチャをゆがいていた。
「おい、カボチャはちょっとだよ」
「分かっている。もうゆがった」
その後、酢豚作りにとり掛かる。結局2人であれこれ言いながら肉を揚げ、油を捨て、野菜を炒める。かたほうではカボチャのサラダやかき玉汁が進んでいた。それを横目に酢豚に片栗粉を入れて完成させる。出来上がった豚汁はまあまあ格好になっていた。それにしても複雑な手順だった。後で家内に聞いて見たが、やはり僕達がやったような手順を踏むのだという。それにしても複雑なものだという感想を持った。
出来上がったり葉理は美味しかった。豚汁も肉が多くて大満足だった。




