7月の料理教室は、料理は作らず1泊の慰安旅行だった。しかし僕はこの旅行と同じ日に社協のメンズサロンを企画していて、どうしてもこれに出ないといけないので、慰安旅行には参加できなかった。それで8月の料理教室は2ヶ月ぶりに皆と顔を合わすことになる。
 いつものとおり福山さんと会場に行くと桑原先生が「今日はゴッホのひまわりを作るのよ」と嬉しそうに言っていた。
 ミーティングが始まると今日は欠席が多く、24名の会員のうち13名が欠席だという。そして早速慰安旅行でのグランドゴルフの話である。その話を聞いていると「結構ドラマがあったんだな」と、僕は参加できなかったことが残念に思えた。
 会長によると、ホテルの部屋に5人泊まる部屋が一つあって、そこに泊まった5人が全てグランドゴルフの賞品を独占したらしい。優勝・2位・3位・4位・5位とみなさらったという。確かにそんなことは珍しい。桑原先生は「飛び賞も私を飛び越えていった」とまだ悔しがっていた。
 

 今月の料理は冷凍食品と缶詰を使った「スピード料理」である。冷凍食品のほうは冷凍のシーフードミックスを使った中華どんぶりに仕上げる。缶詰はツナで、これを「ゴーヤのツナマヨ和え」という恐ろしげな名前の料理に仕上げる。そしてフルーツが先生の言っていた「皿にフルーツの絵を描く(ゴッホのヒマワリ)」であるそうな。
「大きなお皿に絵を描く、と書いているのに大きなお皿が無いわねぇ。仕方がないからこれにするわ」
「最初にまな板をきれいにする関係で最後のフルーツから説明するわ。果物を切って並べてひまわりのようにしようと思うのですよ」と言ってゴッホのひまわりの説明を始められた。
 まずキウイの皮の剥き方である。皮自体は柿を剥くようにクルクルと剥けば良いのだが、硬い芯の取り方について実演しながら教えてもらう。
「枝にくっついていた大きい方ですね、ここに包丁を当ててちょっと切れ目を入れます。そして包丁を動かさずにくるりと一周させます。それからここをつまんでひねるように廻すと固い部部が取れるのです」後で実際にやって見たが、これも単純ではあるが結構慣れが必要な感じである。
 グレープフルーツとオレンジであるが、両端を切り落としてから身を切らないようにして皮を取り除く。
「厚い皮だわねぇ。オレンジを買ったというより、皮を買ったようなものだわね。騙されたようなもんだわ」とブツブツつふやきながら包丁の角で取り除く。
「グレープフルーツはオレンジと色を対比させるために白いものを買いましたが、ルビーと言って中間程度の色のグレープフルーツもあります。あれの方が少し皮は薄いです」
 皮をむいて房の皮を取り除くようにして房に分ける。これが難しい。なにせグレープフルーツは房の皮が薄いので普通はスプーンでとって食べる果物だからだ。
 盛り付けであるが、キウイを葉のように皿の外周にずらりと並べ、その中に白いグレープフルーツを並べる。そしてさらに内側にオレンジの房をぐるりと巻いて中心部にはデラウェア葡萄の粒を盛る。この黄色と紫をひまわりに見立てているらしい。
「先生、皿が小さいということは各人毎に分けて並べるということですか」
「いえ、それではうまくいきません。皿が小さいので2つか3つに分けて作って下さい」
 話を聞いて「よし、これは僕が挑戦しよう」と心に決める。この時見学の人がやってきた。
「どうぞ、どうぞ。今説明をしているのです。今日は人が少ないのでそのまま聞いていて下さい」
 見学というのは、この料理教室に参加したいので事前に様子を見学に来た人だ。この見学者、ただ者ではないらしく、説明を聞いた後で
「レシピは1人分の量で書いてありますが、最近は二人暮らしが多いので《2人分》で書いてもらうとありがたい」と注文をつけた。
「1人分で書いていますが、2人分なら2倍すると良いのです」
「ピッタリ2倍にできないものもあります」
「全て1人分で書いていますので2倍して下さい。最近はNHKの料理番組は2人分で放送しますが、ここでは栄養価の計算に使うのはどうしても1人分でないといけないのです。我慢して下さい」まあ色んな言い方もあるものだ。
 さて、肝心のメイン料理であるが、今日の料理は冷凍シーフードミックスを使った中華丼である。先生は
「冷凍のシーフードというのはまあたいして美味しいものではないですが、こういう冷凍品は素早く料理を作るにはありがたいものです。夫婦2人だったら必要なだけ使って後はまた冷凍しておけば良いですしね」と言う。
 しかし料理の先生のプライドかどうか知らないが、僕らに作らせる中華丼は結構手間のかかるレシピとなっていた。材料がまた多い。シーフードに始まって使う材料は18種類を数える。さらにこれに「長芋とベーコンの蒸し焼き」と「ゴーヤのツナマヨ和え」が付く。全部足したら20数品目の材料を使う。食後のフルーツを加えると禅の教え「1日に30種類の食材」に昼食だけで達成できる。
 

 説明が終わりテーブルに散ると、僕は早速皆に
「ゴッホは僕がやるよ」と宣言する。
 そして材料のオレンジ、グレープフルーツ、デラウェア葡萄、そしてキウイフルーツを手元にかき集めた。そしてマイ包丁をとりだす。この包丁もぼつぼつ研がなけりゃいけないのだが、包丁と一緒に買った包丁研ぎ機は使い勝手が悪い。
 まずキウイを取り上げ、先生の実演のとおり芯を取り除く。そして皮をむいて縦に2つ割し、それから半月切りした。ここまではまあまあの出来である。
 次にグレープフルーツを取り出して皮を剥き始めた。これからが大変な作業になった。グレープフルーツの皮は何とか剥いたが白いところがあちこちに残っている。先生の実演ではさほど残らなかったので、結局僕の皮むきがヘタだということであろう。それで包丁と指を使って白い皮を取り除くのだが、これが手間でなかなかうまく取り除けない。
「まあいいや。多少残っていても毒にはならない」
 それから先生のやった通り、中の袋に沿って包丁で切れ目を入れる。次に袋の反対側も切れ目を入れて、袋1個を取り出すのだが出てくれない。切り込みが浅いのだと思いさらに深く切れ込みを作る。すると包丁は隣の袋にキズを付ける。それで多少強引に袋を取り出した。
「先生この袋の皮はどうやって取るのですか」
「ここにを包丁で切ってから、こうやって左右に引っ張って取るのです」
「薄いなぁ」こうやって少しずつ袋をとりだす。グレープフルーツは2個あるから全部を取り出すと結構時間がかかった。
 次がオレンジだ。オレンジといっても甘夏柑である。グレープフルーツと同じように袋を取り出した。こちらも白い皮が残って大変だった。
「さて、どの皿に並べようか」と皿を探しに行く。でも大きな皿はない。
「おい、これを使ったら」と隣が差しだしたのが炊事用の盆である。
「これか。ちょっと芸が無いなぁ」
「でも大きいよ」
「大きさは良いけど。まあこれにするか」
 そしてキウイフルーツを最外周に並べ始める。次にその内側にグレープフルーツを並べた。こうすると並べ方の不均一が協調されるので手直しする。こうやって最後まで並べ終わった。そして先生を呼んで
「先生、こんなところでどうですか」
「まあきれいに並べたわね」と褒めてもらった。写真を撮ろうとすると、
「何か敷き物があると良いわね」と先生が言うので、着ていたエプロンを脱ぎ、それを下に敷いて写真を撮った。
 ここまでかなり時間がかかり、僕はこのゴッホの絵に小一時間も格闘していた。それで写真を撮ってから周りを見回すと、もうその他の料理はあらかたでき上がっている。結局僕の今日の料理教室はこの果物で終わったのだ。

  試食が始まると、皆料理は美味しかった。少し残してタッパーに入れ上野家内にも食べさせた。家内も「長芋とベーコンの蒸し焼き」を「美味しい」と言った。中華丼は持って帰れなかったので
「作って見たいわ。レシピを見せて」と言う。それで見せると
「このシーフードを買ってきて」と頼まれた。